村上春樹は作品の中に多様なジャンルの音楽を登場させている。彼に とっての音楽とは、単にバックミュージックではなく、祭祀的な性質を 持つものとして、作品の中で大きな影響力を持つものである。しかしな がら、音楽に重点を置いた研究は十分ではなく、現在、音楽をキーワー ドとした研究のほとんどは、音楽の登場する状況や登場人物たちの心理 に視点を置いたものである。
本稿では、音楽が登場人物と直接的に関連している『1Q84』を中心として、 何故村上春樹が特定の音楽を登場させたのか、登場人物とはどのような関わ りを持つのか、曲が作曲された背景や、その曲に込められた作曲家のメッ セージなどに重点を置き考察する。考察を通して作品の奥底に隠されている 村上春樹のメッセージや、登場人物たちの心理を分析することを試みる。