本稿では、近代日本の新聞において実施された漢字制限が記事の文章にどのよ うな影響を与えたかを考察した。漢字制限の実施日を明確に宣言したものとし て、1922年の 東京日日新聞 と1946年の 読売報知 の2紙を対象に、漢字制限前後 の社説を計量的に分析した。 従来の研究では、新聞記事の漢字含有率が低下したのは常用漢字表などの漢 字政策に影響を受けたものであり、新聞社による漢字制限は決して成功したとは いえないという評価が主であったが、本稿での調査により、実際には漢字制限後 に漢字の量が減っており、それにともなって使用する語の特徴や文の長さにも変 化があらわれていたことが明らかになった。具体的には、漢字制限の実施後は実 施前に比べて、漢語および名詞の割合が低く、文の長さが短くなっていた。頻出 する語には目立った相違はなく、また、実際の記事をみてわかるほどの激しい変 化ではないものの、両紙が漢字制限を実施するにあたって述べていた新聞を讀み やすくする誰にも讀めて、よくわかる明るい紙面をつくるという目標に近づい ていることがわかった。 このことから、 東京日日新聞 と 読売報知 の両紙の漢字制限は単に記事の表 記がどうなるかという問題のみでなく、語彙などの面にも影響を与えたことが確 認できた。